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「AI を使えば、きれいなデザインはすぐに作れる」——この感覚は、すでに多くの制作現場で当たり前になりつつある。レイアウト案、配色、キャッチコピー、バナー、LP の構成。これまで時間をかけて検討していた初期案も、AI を使えば短時間で複数パターンを出せるようになった。 ただ、そこで大事になるのは「どれだけ速く作れるか」だけではない。 見た目は整っている。情報も読みやすい。けれど、どこか自社らしくない。競合にも使えそうで、誰が発信しているのか記憶に残らない。AI が制作の初速を上げるほど、ブランドの個性が薄まりやすくなるのだ。 AI 時代のブランドデザインで問われるのは、「AI でどこまで作れるか」ではない。むしろ、誰でも一定以上の見た目を作れる時代に、何を作らないか、何を選ぶか、どこを人間が守るかで差がつく。そして、その判断は制作物そのものより手前、つまりヒアリング・企画・構成の段階でほぼ決まってしまう。 株式会社バーチャルアーツ AI driven marketing事業部 マネージャー兼チーフデザイナーの阪口雄哉氏は、デザイナーとしての制作視点に加え、マーケターとしての戦略設計・導線設計の視点も活かしながら、ブランド設計、Web 制作、UI/UX 設計、コンテンツ設計、広告運用まで横断して支援している。「AI にブランドを任せるのではなく、ブランドの価値が正しく伝わるように、AI を使う側が判断基準を持つことが大切です」と語る阪口氏に、量産時代にブランドの「らしさ」を守り、正しく届ける考え方を聞いた。


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AI driven marketing事業部 マネージャー兼チーフデザイナー

阪口 雄哉さん

株式会社バーチャルアーツ AI driven marketing事業部 マネージャー兼チーフデザイナー。デザイナー歴10年。これまで300件以上のプロジェクトで、ブランド設計、Web制作、UI/UX設計、コンテンツ設計、広告運用など、デザイン・マーケティング領域を横断して支援している。デザイナーとしての制作視点に加え、マーケターとしての戦略設計・導線設計の視点も活かしながら、クライアントとその先にいる受け手との接点づくりを一貫して担っている。

情報が溢れ、誰もが簡単に発信できる時代だからこそ、ただ目立つ表現ではなく、事業の本質と受け手の感情・行動が自然につながるコミュニケーション設計を重視している。「誰に、何を、どのように届けるべきか」を整理し、事業やブランドの魅力が正しく伝わる言葉・デザイン・体験へと落とし込んでいる。

また、AIを活用した分析・設計・制作プロセスの効率化にも取り組み、数字やデータだけでは捉えきれない感情の動きまで汲み取りながら、より実行精度の高いマーケティング支援を行っている。クライアントの想いを具体化し、事業やブランドが持つ価値を正しく届けることで、事業成長に貢献している。

ゴール / ミッション

  • — AI 時代にブランドの差別化がどこに残るかを整理する — 「きれいな見た目」がコモディティ化する中で、自社らしさ、視点、言葉、判断基準をどう競争力に変えるかを明確にする
  • — ヒアリング・企画・構成という「手前の工程」の重要性を伝える — アウトプットの質は、プロンプトの上手さより、その前にある問いの深さで決まることを示す
  • — 暗黙知だったブランドの世界観を、AI に渡せる情報へ変換する — トーン&マナー、避けたい表現、リファレンスの配合、過去の良い事例を整理し、AI が参照できるブランドコンテキストを作る
  • — 量産してもブランドを壊さないレビューの仕組みを共有する — AI による発散と、人間による選別・編集・最終判断を分け、ブランド逸脱を防ぐ運用を設計する

量産という罠

—— 数を出す力ではなく、絞り込む理由を持つ力

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

AI で誰でもきれいなデザインを作れる時代に、プロの価値はどこに残るのでしょうか?

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阪口 雄哉

差がつくのは、デザインを作る力だけではなく、その前にある設計の力だと思っています。

AI を使えば、見た目が整ったデザインやコピーのたたき台はかなり早く出せるようになりました。だからこそ問われるのは「きれいに作れるか」ではなく、誰に、何を、どのように届けるべきかをどれだけ深く整理できているかです。僕自身、最終的なデザイン以上に大事だと感じているのが、最初のヒアリング・企画・構成です。ここを曖昧にしたまま AI を使っても、出てくるものはどうしても一般的になります。

この「設計力」が特に問われるのが、案を絞り込むタイミングです。

新人がこの工程を甘く見ていたときによく陥るのが、「それっぽいデザイン」を量産することに時間を使ってしまうパターンです。「これなら刺さる」という核がないまま数を並べているだけだと、提案の当日、ただたくさんのデザインを並べて「どれがお好みですか?」と聞くだけの場になってしまう。クライアントはそもそもデザインの正解を自分の中に持っていないケースが多いので、「どれもまあ分かるけど、結局どれがどう良いの?」となり、その場では決まらず、持ち帰って検討、また次回、という形で時間だけが過ぎていきます。

大事なのは、量を並べて選んでもらうことではありません。方向性を絞り込み、「なぜこのデザインなのか」「なぜこの構成なのか」を、理由を持って言い切ることです。ここまで言語化してはじめて、クライアントは「これなら勝てる」という手応えを持てます。

正直に言うと、これは AI 以前、僕がまだ駆け出しだった頃に、嫌というほど経験した話です。当時は AI なんてなく、方向性を決めきる自信も経験もないまま、とにかく手を動かして案をいくつも作っては提案する、ということを繰り返していました。今思えば、あれは完全に「作ることで安心していた」んだと思います。結果は当然のように玉砕で、会議で複数案を並べても決め手がなく、持ち帰って作り直し、を何週間も繰り返していました。

その無駄な時間の分だけ、体で覚えました。方向性を絞れないまま数を出すことは、単なる判断からの逃げなんだと。だからこそ今、AI によって圧倒的に速く、多く案を出せる時代になっても、その誘惑には乗らないようにしています。あの頃と同じ失敗を、より高速に繰り返すだけだからです。

もちろん、複数の方向性を見た上で選びたいクライアントもいるので、見せ方の工夫自体を否定するわけではありません。ただそれは、ヒアリングの深さや絞り込む判断を省略していい理由にはなりません。

これはブランドデザインに限った話ではないと思っています。文章、資料、企画、分析、営業提案。AI によって「それっぽいもの」が誰でも作れるようになった領域ほど、前提を詰める力の有無がそのまま結果の差になります。

AI 時代に価値が下がるのは、作業としての制作です。一方で価値が上がるのは、前提を整理し、判断し、意味ある形に落とし込む力だと思っています。

本質を引き出すヒアリング

—— 「答えてくれること」と「本質」は一致しない

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

「誰に、何を、どのように届けるか」は、どう整理すればいいのでしょうか?

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阪口 雄哉

まず大切なのは、いきなりデザインやコピーを考えないことです。制作に入る前に、まず「誰に届けるのか」「何を届けるのか」「どのように届けるのか」を整理する必要があります。

たとえば「サービスの魅力を伝えたい」と言っても、誰にとっての魅力なのかによって、伝え方はまったく変わります。経営者に向けるのか、現場担当者に向けるのか、求職者に向けるのか、既存顧客に向けるのか。それぞれ見ているポイントも、抱えている不安も、行動のきっかけも違います。

ただ、ここで一番怖いのは、クライアントが「答えてくれている」ことと、「本質を言えている」ことが、必ずしも一致しない点です。

たとえば「親しみやすいデザインにしてほしい」と言われたとき、その言葉をそのまま受け取ってはいけません。なぜ親しみやすさが必要だと感じているのか。過去にどんな場面で「冷たい」と言われた経験があるのか。それとも、競合が堅すぎる印象だから、その裏返しとして「親しみやすさ」という言葉を選んでいるだけなのか。同じ言葉でも、背景がまったく違うことがあります。

だから僕は、要望をそのまま受け取るのではなく、その要望がどこから来ているのかを聞くようにしています。質問の踏み込み方として意識しているのは、次のようなことです。

踏み込む対象聞くこと
クライアント本人何が好きで、何が嫌いか。過去にどんな表現を見て「いいな」と思ったか、逆に「これは違う」と感じたものは何か
その理由良い/悪いと感じた理由は、見た目なのか、体験なのか、誰かの言葉なのか
エンドユーザー届ける相手が何を好み、何を嫌うか。クライアントの好みとは必ずしも一致しない

経営者が「かっこいい」と思うものと、実際に商品を買う顧客が「信頼できる」と感じるものが、ズレていることは珍しくありません。感情に踏み込む質問は、最初は聞きにくく感じるかもしれません。でも、そこを避けてヒアリングシートの項目だけを埋めても、本質には届きません。

そのうえで、もう一つ見ておきたいのが、クライアント自身の人柄や、話し方の癖です。普段どんな言葉を選ぶのか、丁寧な言葉を好むのか率直な物言いを好むのか、よく使う口癖や絶対に使わない言い回しは何か。これも、その会社らしい言葉づかいの解像度を上げる材料になります。

ただし、ここへの踏み込み方は、案件によって変わります。特定のサービスや商品単体のブランディングであれば、人柄や口癖の要素はそこまで重要になりません。それよりも、事業本質側のヒアリングに時間をかけるべきです。一方で、コーポレートブランディングのように、会社全体の人格や価値観そのものを表現するプロジェクトになると、代表者や経営陣の人柄、口癖、価値観といった要素の重みは一気に増します。会社全体の「らしさ」は、多くの場合、そこにいる人の人柄がにじみ出たものだからです。

この整理が浅いと、AI にどれだけ細かく指示しても、アウトプットは表面的になります。逆に、ここが深く整理できていれば、AI は非常に強力なパートナーになります。

そして、その整理をもとに構成案を作ります。構成案は、単なるページの見出し一覧ではなく、情報の順番を設計するものです。最初に何を見せれば興味を持ってもらえるのか。どこで課題に共感してもらうのか。どこで強みを伝えるのか。どこで実績や事例を見せるのか。どこで問い合わせや応募につなげるのか。この流れを設計しないままデザインを作っても、見た目は整っていても成果につながりにくい。

前提整理とリファレンス

—— 言葉の限界を、参考事例の配合で補う

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

言葉だけで前提を整理するのが難しいとき、リファレンスはどう活用すべきですか?

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阪口 雄哉

前提を整理するとき、言葉だけで伝えることには限界があります。かといって、実際にデザイン案を複数作りながら擦り合わせていくのは非効率です。そこで欠かせないのが、リファレンスです。

リファレンスにはいくつかの種類があります。

種類内容
ベンチマークブランド同じ業界で、目指したい立ち位置に近いブランド競合や、業界内で評価の高いブランド
異業種の質感リファレンス業界は違うが、見た目の質感やトーンとして参考になるもの金融系クライアントでも、参考にするのはアパレルブランドのビジュアル、など
部分的リファレンスデザイン全体ではなく、要素単位で参考にしたいもの「お問い合わせボタンへの誘導の作り方だけ真似したい」「この余白の取り方だけ参考にしたい」

大事なのは、これらをただ集めることではなく、どのリファレンスを、どれくらいの割合で組み合わせるかを設計することです。ベンチマークブランドの世界観を7割、部分的に参考にしたい導線を2割、まったく異業種の質感を1割。そういう配合を、意図を持って決める。

もちろん、この割合は決まった正解ではありません。大事なのは、なんとなく参考にするのではなく、どの要素をどれくらい取り入れるのかを意図して決めることです。

もう一つ大事な視点があります。それは、その参考にしたいものが、世の中でどう受け取られているか、実際に成果や評価につながっているかどうかです。自分の好みだけでリファレンスを探すと、見つけたものが、実は世間にはあまり評価されていない、ただ自分が好きなだけの一例だった、ということが起こり得ます。だからリファレンスを選ぶときは、好き嫌いだけでなく、一定の評価や実績があるものかどうかも合わせて見るようにしています。

リファレンスを並べるだけなら誰でもできます。でも、その配合の理由を説明できるかどうかに、プロフェッショナルとしての判断が現れると思っています。

ブランドらしさの所在

—— 表面の装飾ではなく、前提をどれだけ詰めたかに残る

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

AI 時代におけるブランドらしさは、どこに残るのでしょうか?

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阪口 雄哉

ブランドらしさは、見た目の装飾だけではなく、判断基準に残る。これは変わりません。ただ、この話はここまでのヒアリングや絞り込みの話と、実は地続きです。というのも、判断基準そのものが、浅いヒアリングからは生まれないからです。

もちろん、ロゴ、色、フォント、写真、余白といった視覚表現は大切です。ただ、それだけでブランドらしさが決まるわけではありません。むしろ重要なのは、その表現をなぜ選ぶのか、何を選ばないのかという判断基準です。

たとえば同じ「信頼感」という言葉でも、金融機関の信頼感と、地域の工務店の信頼感と、スタートアップの信頼感はまったく違います。金融機関なら堅実さや正確さが前に出るかもしれない。地域の工務店なら、人柄や安心感が大事かもしれない。スタートアップなら、透明性や前に進む姿勢が信頼につながるかもしれない。

AI に「信頼感のあるデザイン」とだけ伝えると、一般的な信頼感に寄ります。青系の配色、整ったレイアウト、余白のある構成。悪くはないけれど、どの会社でも使えるものになりやすい。ここで必要なのは、「自社にとっての信頼感とは何か」を人間が定義することです。

そして、この定義ができるかどうかは、結局のところ、Q2で話したようなヒアリングの質に比例します。クライアントの言葉をそのまま受け取らず、「なぜそう感じるのか」まで掘り下げて初めて、その会社だけの信頼感の輪郭が見えてくる。表面だけを整理しようとすると、どうしても抽象語止まりの「らしさ」しか作れません。

言語化するときは、次のように分解すると整理しやすいです。

観点整理する内容
人格ブランドを人に例えると、どんな性格か落ち着いている、率直、面倒見がよい、挑戦的
顧客との距離感友人のように近いのか、専門家として支えるのか親しみやすいが馴れ馴れしくしない、専門的だが難しく言わない
言葉づかい使う言葉・使わない言葉「伴走」は使うが「丸投げ」は使わない、専門用語には補足を入れる
視覚表現色、写真、余白、文字の印象彩度を抑える、人物写真は自然光、過度な装飾を避ける
避ける表現ブランドを傷つける言い方や見せ方煽りすぎる、安売り感を出す、過度に未来感を出す

ブランドらしさは、足し算だけでは守れません。むしろ、何をやらないかに個性が出ます。煽りすぎない。安売り感を出さない。専門的すぎる言葉で置いていかない。未来感を出しすぎて現実味を失わない。親しみやすくしても、軽くしすぎない。

こうした「避ける表現」まで整理できていると、AI に指示する精度も、人間がレビューする精度も上がります。だから、ブランドらしさを「言語化する」というより、前提をどれだけ深く詰めたかが、そのまま形になって現れると考えたほうが正確だと思います。AI 時代のブランドデザインは、「作る技術」だけではなく、その手前でどれだけ絞り込めたかが問われるようになると思います。

AI への伝え方

—— 目的・対象・基準・禁止事項をセットで渡す

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

ブランドらしさを AI に伝えるには、何を整理すべきですか?

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阪口 雄哉

AI にブランドを伝えるときは、「いい感じに」「うちらしく」といった指示では足りません。人間同士であれば、過去のやり取りや空気感で補えることがありますが、AI はそこを勝手に理解してくれるわけではありません。だからこそ、前提情報を構造化して渡す必要があります。

僕が大切だと思っているのは、次の 4 つです。

  1. 目的: 何のために作るのか。認知、問い合わせ、採用、既存顧客向けなど、目的によって表現は変わる
  2. 対象: 誰に向けるのか。年齢や業種だけでなく、相手が何に困っていて、どんな感情で見るのかまで書く
  3. ブランド基準: どんな印象を与えたいか、何を大事にするか。抽象語だけでなく具体例も添える
  4. 禁止事項: 使わない言葉、避けたい見た目、誤解を招く表現

参考になるリファレンスそのものについては、Q3で話した通りです。ここで改めて伝えたいのは、AI に渡す前提として、良い例だけでなく、あえてダメな例も理由付きで見せることが非常に効くという点です。「この LP はらしい。理由は、専門性を出しつつ言葉がやさしいから」「このバナーはらしくない。理由は、割引訴求が強くて安売りの印象になるから」。こういう判断の背景を渡すと、AI も単なる表面模倣ではなく、基準に沿った提案をしやすくなります。

実務では、毎回ゼロからプロンプトを書くのではなく、ブランドの概要、ターゲット、トーン&マナー、良い例・NG 例、よく使う言葉、避ける言葉を、あらかじめ一つの前提情報としてまとめておくのが現実的です。多くの AI ツールには、そのやり取りとは別に、継続的に参照される設定として情報を溜めておける仕組みもあります。そうした場所にブランドの前提を置いておけば、記事、バナー、LP、営業資料など、用途ごとに追加情報を足すだけで使えますし、都度説明し直す手間を減らしながら、判断基準の一貫性も保ちやすくなります。

AI はブランドを勝手に理解してくれる存在ではありません。こちらがブランドを整理し、翻訳し、渡すことで初めて機能します。つまり、AI 活用の前に必要なのは、ツール選びよりも自社のブランドを説明できる状態にすることです。

ブランド適合の判断

—— きれいさではなく、顧客接点と事業目的に合っているかを見る

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

「一般的に良いアウトプット」と「このブランドにとって良いアウトプット」は、どう見分ければいいですか?

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阪口 雄哉

AI の出力は、ぱっと見で整っていることが多いので、良し悪しを見誤りやすいんです。整っているから OK に見える。でも、ブランドに合っているかは別問題です。

見分けるときは、僕は 3 つの問いを使います。

1つ目。この表現は、誰にでも言えることになっていないか。
「お客様に寄り添います」「高品質なサービスを提供します」。こうした言葉は間違ってはいませんが、多くの会社が言えます。ブランドらしさが出るのは、その会社ならではの経験、視点、言い切り、具体例が入ったときです。

2つ目。既存の顧客が見たときに違和感がないか。
すでに接点のある顧客が、その表現を見て「たしかにこの会社っぽい」と感じるかが大事です。新しさを出そうとして、既存顧客が知っている印象から離れすぎると、ブランドの信頼が揺らぐことがあります。

3つ目。事業上、どの行動につなげたいのかが明確か。
見た目が美しくても、事業目的とズレていれば良いデザインとは言えません。AI は見た目を整えるのは得意ですが、事業上の優先順位は人間が決めるべきです。

だからレビューでは、単に「きれいかどうか」ではなく、次のように確認します。

確認項目見るポイント
ブランド人格この言葉づかい・見た目は、ブランドの人格と矛盾していないか
顧客理解顧客の悩みや期待に対して、表現が適切な距離感になっているか
独自性競合にもそのまま使える表現になっていないか
事業目的何を伝え、どんな行動につなげたいかが明確か
継続性今後の発信や制作物と並べたときに、一貫性があるか

AI のアウトプットは、最初のたたき台としては非常に有効です。ただし、最後に「これは自社の顧客に対して、自社の言葉で語れているか」を確認する。その一手間が、ブランドを守るうえで欠かせません。

量産と精度の順番

—— 型を固めてから量産する。順番を逆にすると、ブランドは薄まる

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VQ編集部 インタビュアー

AI が量産したアウトプットから、ブランド逸脱をどう防げばいいですか?

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阪口 雄哉

まず前提として、量産すること自体は悪いことではないと思っています。型やパターンがすでに決まっているものを、大量に、速く作るのは AI が最も得意とする領域です。

問題が起きるのは、その型や精度が固まっていないまま、量産に入ってしまったときです。ブランドの人格、避けるべき表現、良い例と悪い例といった前提が曖昧なまま数だけ増やしても、出てくるのは手当たり次第の、質の低い、ブランド感さえ薄まったアウトプットの山でしかありません。それは効率化ではなく、ただの無駄な作業です。

だから、量産に向き合うときの近道は、量を出す前に、まず一つの精度を上げることだと思っています。ブランドの人格、避ける表現、良い例と悪い例。こうした「型」を一本、きちんと固める。その型が固まって、初めて量産のフェーズに進む。この順番を逆にしてはいけません。

型が先にできていれば、量産したアウトプットをチェックする観点も一つに絞れます。「その型から逸脱していないか」。これが、AI が量産したものを見るときの一番の軸になります。たとえば、次のような項目です。

  • ブランドの人格と矛盾する言葉づかいになっていないか
  • 煽りすぎ、安売り感、過度な未来感など、避けたい表現が入っていないか
  • 競合にもそのまま使える一般論だけになっていないか
  • 顧客の不安や感情に対して、距離感が合っているか
  • ロゴ、色、余白、写真、文字量が既存のトーン&マナーと大きくズレていないか
  • 数字、実績、事例など、事実確認が必要な情報を AI が補っていないか

そのうえで、その型からの逸脱チェックに加えて、人が必ず確認すべきエリアを明確にしておくことも欠かせません。すべてを同じ重さで見ていると、量産の速度に人の確認が追いつかなくなります。制作物ごとに、リスクの高い部分だけ人が見る、という設計にしておく必要があります。

制作物AI に任せやすい範囲人が必ず確認する範囲
SNS 投稿投稿案、見出し案、言い換え炎上リスク、ブランドトーン、事実関係
ブログ記事構成案、初稿、要約独自視点、事例、数字、言葉の温度感
広告バナーレイアウト案、コピー案訴求の強さ、誤認表現、ブランド毀損リスク
LP / Web ページセクション案、情報整理、初期デザイン導線、事業目的、ブランド全体との一貫性
営業資料構成、たたき台、図解案顧客別の文脈、約束内容、価格・条件

量産がダメなのではありません。量産は、型と精度ができてから始まるものだということです。それでも、AI の出力には毎回、微妙な振れ幅があります。だからこそ、その振れ幅やリスクに対して、明確なレビュー設計を先に用意しておくことが重要になります。

最終的な責任の所在を一人に決めておくこと自体も無意味ではありませんが、それ以上に大事なのは、「型を固めてから量産する」「型からの逸脱を見る」という仕組みそのものを、先に作っておくことです。仕組みさえあれば、担当者が誰であっても、同じ精度で判断できるようになります。ブランドは、作る量ではなく、残すものの質で記憶されます。

AI の限界と人間の領域

—— 顧客の感情、創業者の意志、現場の空気は人が判断する

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

AI では捉えきれないブランドの文脈は、どこに残りますか?

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阪口 雄哉

AI は情報を整理するのが得意です。過去の資料を読み込ませれば、よく使う言葉や構成の傾向を抽出できます。競合比較もできます。トーンの違いを言語化することもできます。これは非常に便利です。

でも、ブランドのすべてを AI が理解できるわけではありません。特に難しいのは、言語化されていない文脈です。創業者がなぜその事業を始めたのか。昔から付き合いのある顧客に、どんな言葉をかけてきたのか。現場の担当者が、どんなところに誇りを持っているのか。こうしたものは、資料に残っていないことが多い。

AI は入力された情報から判断します。逆に言えば、入力されていない暗黙知は扱えません。だから、人間が担うべき領域は明確です。

  • 顧客の感情を読むこと: いま相手は不安なのか、期待しているのか、背中を押してほしいのかを判断する
  • ブランドの意志を決めること: 何を大事にし、何をしないかを経営・事業の意思として決める
  • 違和感に気づくこと: 言葉では説明しにくい「うちっぽくない」を見逃さない
  • 責任を持って出すこと: 公開・提出した表現に対して、誰が責任を持つかを明確にする

特に「違和感」は重要です。AI の出力を見て、「整っているけれど、何か違う」と感じることがあります。その違和感は、単なる好みではなく、過去の経験や顧客理解から来ている場合が多い。そこで流さずに、「何が違うのか」を言語化する。すると、次の指示やブランドガイドラインが少しずつ良くなります。

AI がブランドを壊すのではありません。人間が違和感を流したときに、ブランドは少しずつ薄まっていきます。

そして、この違和感に気づけるかどうかも、結局は最初にどれだけ深く前提を詰めたかに戻ってきます。ヒアリングで本質まで掘り下げていれば、AI の出力を見たときに「何かが違う」と感じる解像度も上がる。逆に、前提が浅いまま量産フェーズに入ってしまうと、そもそも何を基準に違和感を判断すればいいのかさえ分からなくなります。

だから、AI 時代ほど人間の審美眼、文脈理解、ヒアリング力、責任ある判断が重要になる、という話は、結局のところ、AI を使う手前でどれだけ深く考え、詰められたかという話に集約されると思っています。

最初のアクション

—— 棚卸しとリファレンス、型を先に固めてから量産に入る

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

自社ブランドを AI 時代に守りたい経営者や担当者へ、最初の一歩を教えてください。

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阪口 雄哉

最初から完璧なブランドガイドラインを作ろうとしなくて大丈夫です。むしろ、完璧を目指すと進まなくなります。

ただ、ここまで話してきた通り、最初の一歩として大事なのは、項目を埋めることそのものより、自社の棚卸しとリファレンスにどれだけ向き合えるかだと思っています。具体的には、次の 3 つに整理して考えてみてください。

  1. 本質の棚卸し: 自社が顧客にどう見られたいか、なぜそう見られたいのか。エンドユーザーが何を好み、何を嫌うか。ここは「答えやすい表面的な要望」で止めず、その背景まで一段掘り下げて言語化する
  2. リファレンスの整理: 最初の段階では、Q3で話したような、世の中のベンチマークブランドや異業種の質感、部分的に真似したい表現を、なぜ良いのかという理由付きで集めておく。実際に量産フェーズへ進んでからは、自社がすでに作った制作物の中の「良かったもの」「違和感があったもの」も、同じようにリファレンスとして蓄積していく
  3. 使わない言葉・避けたい表現: 煽り、安売り感、過度な専門用語など、自社が絶対に使いたくない表現を明確にしておく

この 3 つが揃って、はじめて「型」と呼べるものになります。そして、この型が固まってから、初めて AI を使った量産のフェーズに進むべきです。逆に言えば、この 3 つが曖昧なまま量産に入ってしまうと、Q7 で話した通り、型のないまま数だけ出すことになり、ブランドはどんどん薄まっていきます。

次におすすめしたいのは、AI が作ったものを 3 つに分けて見ることです。

分類判断
そのまま使える表現、事実、ブランドトーンが合っている。軽い調整で公開・提出できる
直せば使える構成や方向性はよいが、言葉や温度感に調整が必要
使わないきれいでもブランドから外れている。事業目的や顧客の文脈に合わない

この「使わない」を決めることが、実はとても大事です。AI を使うと、もったいないから全部活かしたくなる。でもブランドを守るには、出てきたものを捨てる判断が必要です。

AI は、ブランドを広げる力にも、薄める力にもなります。どちらになるかは、量産に入る前に、自社の棚卸しとリファレンスにどれだけ向き合えたかで決まる。そこから始めれば、AI はブランドを壊す存在ではなく、ブランドをより速く、より広く、より正しく届けるための道具になると思います。

AI 時代にブランドを守るための要点


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AI driven marketing事業部 マネージャー兼チーフデザイナー

阪口 雄哉さん

株式会社バーチャルアーツ AI driven marketing事業部 マネージャー兼チーフデザイナー。デザイナー歴10年。これまで300件以上のプロジェクトで、ブランド設計、Web制作、UI/UX設計、コンテンツ設計、広告運用など、デザイン・マーケティング領域を横断して支援している。デザイナーとしての制作視点に加え、マーケターとしての戦略設計・導線設計の視点も活かしながら、クライアントとその先にいる受け手との接点づくりを一貫して担っている。

情報が溢れ、誰もが簡単に発信できる時代だからこそ、ただ目立つ表現ではなく、事業の本質と受け手の感情・行動が自然につながるコミュニケーション設計を重視している。「誰に、何を、どのように届けるべきか」を整理し、事業やブランドの魅力が正しく伝わる言葉・デザイン・体験へと落とし込んでいる。

また、AIを活用した分析・設計・制作プロセスの効率化にも取り組み、数字やデータだけでは捉えきれない感情の動きまで汲み取りながら、より実行精度の高いマーケティング支援を行っている。クライアントの想いを具体化し、事業やブランドが持つ価値を正しく届けることで、事業成長に貢献している。